民法|未成年者の詐術【ゲームの課金トラブル】
オンラインゲームのユーザーは、経済的に余裕のある社会人が多数です。
大人がガンガンお金を使ってゲームを進めていきます。
未成年がこれに対抗するのは難しいので、“ほどほど”で楽しむしかありません。
しかし、ゲーム内にはお金をつぎ込みたくなる仕掛けが張り巡らされています。
友人に誘われ、ちょっとやってみたことがありますが、金銭感覚の狂った人が沢山いました。理解し難い世界です。
決済手段が増えたことにより、未成年でもお金をつぎ込むことが可能になりました。
なんとか取消したいところですが、なかなか難しいのが現状です。
また、年齢確認画面で「成年」であると回答するなどの『詐術』を用いた場合、取消権は行使できません(民法21条)。
「未成年者の詐術」について、ネット上で契約する場面を中心に解説します。
目次 1.「詐術」とは 2.オンラインゲームの申込みにおける詐術 3.詐術に関する経産省のガイドライン ►法定代理人の同意確認 ►いわゆるキャリア課金について ►詐術による申込み(民法21条) ►「詐術を用いた」の判断で考慮される事情 ►詐術にあたらないとされる事例 ►法定代理人名義のクレジットカードを使用した場合 ►未成年者名義のクレジットカードを使用した場合 ►取消後の手続き |
1.「詐術」とは
未成年者が有効に法律行為をするには、原則として法定代理人の同意が必要です(民法5条1項)。
一部の例外を除き(⇒blog:未成年でも取消せない法律行為)、同意のない法律行為は取消すことができます(民法5条2項)。
この法理は、取引経験が浅い未成年者が高額な取引・不必要な契約をした場合に、その未成年者を保護するためにあります。
したがって、未成年者が取引相手を騙し、無理矢理に取引・契約を成立させた場合、もはや保護の対象とは言えず、取消権を行使することができません。
これが『未成年者の詐術』です(民法21条)。
年齢を偽り成年だと主張する場合、法定代理人の同意を得たと偽る場合があります。
『詐術』は、詐欺(民法96条)ほど悪質ではありませんが、「嘘ついちゃった」では済まされない。そんなところに位置しています。
『詐術』に関する有名な判例(最判昭44.2.13)
※記事内容にあわせ、判決内の「制限行為能力者」を「未成年者」に、「行為能力者」を「成年者」の表記に改めています。
詐術は、 ①成年者であると誤信させるために相手方に積極的術策を用いた場合に限られるものではない。 ②未成年者であることを黙秘していた場合でも、それが未成年者の他の言動と相まって相手方を誤信させ又は誤信を強めたものと認められるときも含む。 ③未成年者であることを終始黙秘していただけの場合は含まない。 |
この判例は、「詐術」が肯定されやすい方向での判断になっています。
嘘をついた未成年に対して厳しめの判断です。
これに対しては、『積極的術策があった場合に限定すべき』など、有力な批判もあります。
取消権を失ってもやむを得ないほどの“嘘”とは何か?
行為者が未成年であることも相まって、そのボーダーラインは曖昧です。
2.オンラインゲームの申込みにおける詐術
対面取引においては、容貌等の外観、身分証明書の提示等により、相手方が未成年者か否かを比較的容易に判断することができます。
他方、非対面の電子商取引においては、このような判断ができません。
『詐術』が成功しやすくなるので、誘惑に流されやすくもなります。
未成年者が詐術を用いてトラブルになった場合、ゲームの運営会社や決済代行会社との交渉が必要になりますが、取消・返金はなかなか難しくなっています。
なお、この交渉を行政書士が行うことは弁護士法に違反する可能性が高く、交渉を代理することはできません。
まずは国民生活センター・弁護士さんにご相談ください。
3.詐術に関する経産省のガイドライン
下記の準則を参考に解説します。
⇒経済産業書HP:『電子商取引及び情報財取引等に関する準則」を改訂しました』
►法定代理人の同意確認
電子契約おける法定代理人の同意確認は容易ではありません。
しかし、“事業者は、年齢確認及び法定代理人の同意確認のために適当な申込受付のステップを検討する必要がある”とされています。
►いわゆるキャリア課金について
スマホ内で物を購入し、その代金を月々の通話料等と合算して支払うことをキャリア課金(決済)と呼びます。
しかし、個々の電子契約と携帯電話の利用契約は別個の契約です。“法定代理人の同意の有無は、個々の電子契約ごとに判断する必要がある”とされています。スマホを持つことに同意したからといって、ゲーム内での課金にまで同意したことにはなりません。
►詐術による申込み(民法第21条)
申込み受付の際、事業者の側で年齢確認のための措置を画面上で講じているときに、“未成年者が故意に虚偽の年齢を通知し、その結果、事業者が相手方を成年者と誤って判断した場合”には、未成年者が「詐術を用いた」ものとして、民法第21条により、当該未成年者は取消権を失う可能性があります。
なお、確認システム構築の際は、“未成年者取消を防止するシステム構築のコスト負担”を考慮することが認められており、システム構築は必ずしも事業者の義務ではありません。
ただし、システム構築においては、“未成年者の理解力・注意力を考慮した適切な画面設計が求められ、文字の大きさ、色、文章表現、わかりやすい画面表示が必要”とされています。
►「詐術を用いた」の判断で考慮される事情
- 未成年者の年齢
- 商品・役務が未成年者が取引に入ることが想定されるものか否か
- 未成年者を誘引する勧誘・広告の有無
- 確認画面の表示から警告の意味を認識できるか
- 年齢確認の仕組みが不実の入力による取引を困難にする仕組みになっているか
- 「未成人の場合には親権者の同意が必要である」旨を申込み画面上で明確に表示・警告したうえで、申込者に生年月日等未成年者か否かを判断する項目の入力を求めているにもかかかわらず未成年者が虚偽の生年月日を入力したという事実だけでなく、さらに未成年者の意図的な虚偽の入力が「人を欺くに足りる」行為といえるかについて、他の事情も含めた総合判断を要する。
►詐術にあたらないとされる事例
- 単に「成年ですか」との問いに「はい」のボタンをクリックさせる場合
- 利用規約の一部に「未成年者の場合は法定代理人の同意が必要です」と記載してあるだけの場合
“単に年齢確認画面や生年月日入力画面に虚偽の年齢や生年月日を入力した事実のみをもって「詐術を用いた」とは断定できず、事業者の設定した年齢確認や親の同意確認の障壁を容易にかいくぐるものであったかなど、他の要素も考慮することが求められる”とされています。
►法定代理人名義のクレジットカードを使用した場合
そもそも論として、多くの場合、名義人以外がクレジットカードを使用することは利用規約で禁止されています。そのため、お子さんにカードを使わせてしまった事実は、カード利用者としての責任、親の責任問題として扱われます。
したがって、仮に契約を取消せたとしても、完全に責任を免れることは難しいです。何等かの金銭的負担が生じる可能性があります。上記のガイドラインでは、①子による“なりすまし”と②親の監督義務違反について言及されています。
①子供による親への「なりすまし」を主張する場合
一般的なクレジットカード会員規約では、クレジットカード会員は、以下の場合を除き支払・賠償義務を負わないとされています。
- 善良なる管理者の注意をもってクレジットカード及びクレジットカード情報を管理する義務に違反したとき、
- クレジットカードの紛失・盗難に遭った後、速やかに届け出を行わなかった場合
- クレジットカード会員の家族、同居人等の不正行為であるとき、
- クレジットカード会員の故意又は重過失のために不正行為が生じたとき
子供による不正使用の場合、1.3.4.に該当する可能性が高く、「なりすまし」を主張して免責を求めるのは困難です。
「2.紛失・盗難」について “法は家庭に入らず”と言われるように、親族間での遺失物横領・窃盗については、他人の犯罪行為とは区別して考えられています(刑法244条:親族相盗例 )。よほど特殊なケースでない限り、親の責任と考えるのが自然です。 |
②親の監督義務違反
親名義のクレジットカードが子供に不正利用されていた場合、親としての監督義務違反を指摘され、損害賠償を請求される可能性があります(民法712条、714条、または709条)。
►未成年者名義のクレジットカードを使用した場合
未成年者が自己名義のクレジットカードを所持している場合、発行会社の厳格な審査を通過しているうえ、カード発行について法定代理人の同意を得ていたものと推測できます。
したがって、カード限度額内での利用については、原則として取消すことができません。
例外的に、「出会い系サイト」の利用など、法定代理人が同意していたとは考え難いケースについては個別に判断されます。
►取消後の手続き
①まだ支払をしていない場合
未成年者の締結した電子契約が取り消された場合、契約は遡及的に無効となります(民法第121条)。未成年者の代金支払義務、事業者のサービス提供義務、その双方の義務は消滅します。
②支払済みの場合
既に支払済みの場合、事業者は代金の返還義務を負います。ただし、代金の決済にクレジットカードやキャリア課金等、決済業者が介在している場合、そちらとの交渉も必要になります。
未成年者の側は、商品・サービスの返還義務を負います。未成年者が受けたサービスが情報財の提供であった場合には、未成年者は情報財(ゲーム内のアイテム等)を使用し続けることはできません。有料サービス提供事業者側は、未成年者に対して情報財の消去を求めることができます。
嘘をつくと鼻が伸びますよ。
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