内容証明郵便|詐欺か、錯誤か、それが問題だ。
絵画のことなんてわからないのに、ふらっとギャラリーに立ち寄ったら、「芸術がわかる人」と煽てられ、カッコつけて買っちゃった...でも、なんか詐欺っぽい。
そんな状況を設定してみました。
漫画『クロサギ』の第65話~67話「絵画販売詐欺」を参考にしています。
主人公の『クロ』には鼻で笑われそうですが、内容証明郵便を使って反撃します。
設例
| 待ち合わせの場所にかなり早く到着してしまった須藤瑛司さん。暇つぶしに、画廊『ギャラリーRH』に立ち寄ることにしました。芸術のことなんてわからないので、ただの冷やかしです。
ちょっと気になる絵があったので、知った風な顔で眺めていると…
「この絵が気になりますか?」「なかなかお目が高いですね。」と 店長の会田恭子さんに声を掛けられました。 聞けばこの作品、作品名『Paranoid Humanoid』、 新進気鋭の人気画家『トミー・ヨーク』制作のリトグラフとのこと。全世界で200枚限定、シリアルナンバー入りなので非常に価値がある。お値段22万円。しかし、今後値上がりするのは確実で...(中略)云々。 綺麗な女性におだてられ、“そんなに凄い作品なら、まぁいいか”と、つい見栄を張ってしまい、お買い上げ。 家に帰って調べてみると、トミー・ヨークなる画家は存在するものの、さほど有名ではなさそうです。検索しても本人のtwitterしか検索にかからない… 新進気鋭の人気画家?ホントか? |
設例の解説
[絵画の価値]
絵画の価値は“わかる人にしかわからない”ようで、有名な絵画を除き、相場や市場価格と言えるものが存在します。一般的には号数を基準に画家や画商と交渉して決められるようです。
なお、リトグラフとは、水と油の反発する性質を利用した版画です。単なるコピーとは異なり、ひとつひとつが「作品」です。版画なので大量生産が可能ですが、そこをどれだけ限定するかで価値が変ります。枚数が限定され、シリアルナンバーが入るのは当然です。ちなみに、「200枚」は版の耐久性の上限に近く、限定というより限界に近いようです。
※絵の価値で揉めた時は、美術の専門家に相談してください。
[詐欺取消(民法96条1項)]
民法96条1項の詐欺取消の要件を充たすと、詐欺によってした意思表示を取消すことができます。支払った金銭は返金され、受け取った物は返却します。刑法にも詐欺罪(刑法246条)がありますが、こちらは犯罪者の処罰が目的です。
詐欺取消と詐欺罪の比較については
[詐欺の要件①~④]
① 相手を欺く行為(欺罔行為)
・新進気鋭の人気作家?
・限定品、シリアルナンバー入りで価値が高い?
・値上がり確実?
② 錯誤による意思表示
・「価値が高い物なら」「22万円を支払ってもいい」という錯誤
※「価値が高いなら」は購入の『動機』です。動機の法的な評価は難しい問題です。
③ ①と②の因果関係
・作品の価値についての欺罔行為がなければ購入していない。
④ 詐欺の故意(騙す意図と相手に意思表をさせる意図)
・購入の意思表示をさせる意図は当然あるはず。しかし、騙す意図があったのかは不明。
設例の場合、④の要件を充たすのが難しそうです。そもそも、内心の“騙す意図”を証明するのは難易度が高いです。また、①の欺罔行為についても、ちょっと大袈裟に説明してしまった、素人に対する配慮が欠けただけ、そんな反論が予想されます。
[詐欺を主張する前に]
相手が本物の詐欺師と思われる場合、独りで戦うのはお勧めできません。まずは法律家・警察などに相談してください。不用意に動くと、状況を察知して雲隠れするかもしれません。本設例の会田恭子さんは、詐欺師ではなく善良な一般市民ということにして話を進めます。
[詐欺取消ができそうにない場合]
①民法の錯誤を主張する。②消費者契約法の「誤認」を根拠に取消す。
2つの方法をご紹介します。
①錯誤(民法95条)による取消
詐欺取消の要件を充たせそうにない場合、錯誤による取消(民法95条)を検討してみてください。「騙された」と思うぐらいですから、何等かの錯誤があるはずです。
ただし、契約の「動機」に錯誤がある場合、それが「表示」されている必要があります(同条2項)。また、自らに「重大な過失」がある場合、取消権の行使が難しくなります(同条3項)。
②消費者契約法
消費者契約法は、その名の通り消費者を守るための法律です。民法の錯誤取消・詐欺取消よりも取消しが容易になっています。事業者・消費者間の取引であれば、こちらを主張する方が有利です。(長くなるので、消費者契約法の解説は別の機会に)
[結論]
詐欺取消の主張は「詐欺の故意」の要件を充たせそうにないので却下します。錯誤取消は「動機」が「表示」されていたか否かで反論されそうなので、こちらも却下します。
結論として、消費者契約法の4条1項1号の『不実告知』、2号の『断定的な情報提供』を根拠に取消権を行使します。
文例[1行20文字、1ページ26行、wordでの作成画面です。グリッド線を表示しています。]
「貴殿の説明は事実と異なり、当該作品の価値を正確に伝えたものでないことがわかりました。」の後に、専門家の意見などを挿入し、事実と異なる点を列挙してもいいのですが、架空の話でディティールが決まっていないので割愛しました。(こちらの手の内を隠し、相手の反応を待つという意味もあります)
今回のポイントは、①詐欺の主張は難しい、②詐欺取消がだめなら錯誤・誤認を検討という点です。
詐欺には遭わないよう、お気を付けください。
参考文献
『クロサギ』黒丸・夏原武(小学館)[第65話~67話:絵画販売詐欺]
みらい総合法律事務所 編著「応用自在! 内容証明作成のテクニック」(日本法令)
登場する人物・団体は、実在の人物・団体などとは関係ありません
内容証明郵便|詐欺か、錯誤か、それが問題だ。
茨城県稲敷郡阿見町の金田一行政書士事務所
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