建設業許可|『登記されていないことの証明書』と『身分証明書』
何年も前の話ですが、土木事務所で順番待ちをしていたら、こんな会話が聞こえました。
職員さん:「『登記されていないことの証明書』が添付されてませんね。」
申請者さん:「はい。通常、後見登記がされていることはありませんので、
不要だと思い、添付しませんでした。」
職員さん:「確かに、あまり無い事かもしれませんが・・・
それを証明する必要がありまして・・・」
う~ん、この場合、「じゃぁ、添付しなくてもいいですよ。」とはなりません。
法定の必要書類であり、取得も容易です。
「~というわけで、添付してくださいね。」となります。
話はちょっと変りますが、初めて建設業許可を申請する際、「登記されていないことの証明書」と「身分証明書」なぜ双方が必要なんだろう?と疑問に思いました。身分証明書だけで充分じゃないかと。
↓証明される事項がこんな感じなので
登記されていないことの証明書 | 身分証明書 |
後見登記等ファイルに成年被後見人、被保佐人とする記録がないことを証明する。 | 禁治産又は準禁治産の宣告の通知を受けていない。 |
後見の登記の通知を受けていない。 | |
破産宣告通知又は破産開始手続開始決定の通知を受けていない。 |
※「禁治産」は、現行の成年後見制度が始まる前の呼称です。現在の「成年被後見人」にほぼ対応しますが、制度の理念は根本的に異なります。
なぜこのような証明書が必要かと言うと、改正前の建設業法8条が、その第1号において、「成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの」であることを建設業許可の欠格要件としていたからです。
※対象は「許可を受けようとする者」です。法人の役員等、個人事業主が該当します。
ん? それは身分証明書だけで証明できてるのでは?
いや、何か理由があるはず・・・
こういったモヤモヤを放置すると、理解が不十分なまま業務を遂行することになります。
当時新米だったワタクシは、この件について調べてみました。
なるほど、平成12年に禁治産制度から現行の成年後見制度に変ったことにより、証明方法も変わったわけですね。
禁治産制度で戸籍に記載されていた事項が、後見制度では後見登記等ファイルに記録される。そのため、今も昔も欠格要件に該当しないことを証明するために、2つの証明手段が必要になるわけですか。
平成12年3月31日以前 → 身分証明書で証明する。
平成12年4月1日以降 → 登記されていないことの証明書で証明する。
ん? つまり・・・
平成12年4月1日の時点で未成年なら『登記されてない~』だけでもOK?
あっ、だめだ。『破産』の証明ができない。
結局どちらも必要なのか。
※改めて「登記されてない~」の交付申請書を読んでみたら、しっかり説明が書いてありました。
一方、改正後(令和元年9月14日施行)の建設業法8条は、成年被後見人または被保佐人であることを、建設業許可の欠格要件とはしていません。
成年被後見人・被保佐人に該当する場合であっても、医師の診断書を提出し、十分な判断能力・意思疎通の能力があることを証明できれば、建設業許可を受けることができます。
必要となる診断書は、「契約を締結及びその履行にあたり必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができる能力を有する旨を記載した医師の診断書」です。
今のところ、このようなケースの御依頼を頂いたことはありません。
かなりのレアケースだと思いますので、今後も無い…かな?
役員就任と成年後見制度 成年被後見人の行った法律行為は、日常生活に関する行為を除き「取り消すことができ」ます(民法9条)。成年被後見人を保護するための制度です。 以前の会社法では、成年被後見人・被保佐人に該当する方は取締役等の会社役員に就任することができませんでした。しかし、2021年3月施行の改正会社法により、現在では成年被後見人・被保佐人の方も役員等に就任できます。建設業法もこれにあわせて改正されました。 とはいえ、契約が問答無用で取消される状態では怖くて取引ができません。そのため、「取締役の資格に基づく行為」は、民法9条の取消権を行使できないとされています(会社法331条の2 第4項)。 このような仕組みになっているので、成年被後見人が会社役員に就任する場合、他の役員等のサポートが必要になります。ただし、会社と役員の関係は個人の能力に着目した委任関係です。サポート役が出しゃばりすぎるのは適切でないと考えられています。 欠格条項がなくなることで、成年後見制度の利用が促進されるという面があります。肯定的に考えたいのですが、会社経営においては諸々の法的リスクが伴うことも考慮しておいてください。 |
【後見・保佐の申立件数】 2021年の調査では、後見開始の審判の申立件数は28,052件、保佐開始の審判の申立件数は8,178件となっています。想定される利用者数に比べ、まだまだ普及率が足りないと言われています。 参考資料:最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和3年1月~12月」 |
と、いうわけで、現在では各証明書を提出する理由が変わったと言えそうです。
「登記されていない~」 → 医師の診断書が不要になる。
「身分証明書」 → 破産者でないことを証明
まぁ、提出する書類は以前と同じなので、あまり実益がないですね、この考察。
ところで、
『登記されていないことの証明書』、この名称。
こんなに平仮名が並ぶのは、漢字だらけの法律の世界では珍しい。
「されていないことの」と言う時に舌を噛みそうになります。
何か他の呼び方はないものか・・・
「登記されていない」ことを「未登記」と表現するのは違和感があるので、
「成年後見未登記証明書」は適切ではない、では他に・・・
この考察は、ちょっと面白い。
建設業許可|「登記されていないことの証明書」と「身分証明書」
茨城県稲敷郡阿見町の金田一行政書士事務所
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